オフシーズンの過ごし方 勝つための体作り「菌活」を始めてはいかがでしょうか?
今年の夏はとても暑く、秋に入っても夏日が観測されるなど、気温の変化が激しい日々が続きました。最近も季節外れの温かい日から、翌日には真冬のような寒い日になるなど、急激な気温の変化により体調を崩す人が増えています。ゴルファーにとっては、これから次のシーズンに向けてしっかりとトレーニングをする大切な時期。そこでおすすめしたいのが「菌活」です。風邪やインフルエンザ予防として腸内環境を整えることの大切さはよく聞きますが、「腸内の菌の数が少ない子供たちが増えており、一定の菌が支配しやすい環境になっている。その環境がアレルギーやアトピーの原因となってしまう」ということもわかってきています。(Shetreat-Klein(2016))
アスリートにとって、腸内環境を整える理由は他にもあります。「第310回勝つための疲労回復のポイント」で少しご紹介した炎症とリカバリーに関連することがその一つ。そしてもう一つは、運動能力を高める細菌がエリートアスリートの腸内に棲息していること(Scheiman, J., et al (2019))や、その細菌がコンディション対策等に有用な可能性がある、ということです。
まだまだ解明されていないことも沢山ありますが、現時点でいえることは、腸内環境のバランスを保つには「良い菌」ばかり取るのではなく、多様性が最も大切だということです。
今回は、オフシーズンの過ごし方として是非考えていただきたい「アスリートにとっての腸内環境」と、今から簡単に始められる菌活についてご紹介いたします。
腸は人体最大の免疫器官
腸は大きく分けて、小腸と大腸に分かれます。腸の長さは成人で全長7メートルほど。小腸は、多くの絨毛で覆われ、面積はテニスコートと同じくらいといわれています。口の中で噛んだ食べ物は、胃で殺菌され、消化・吸収しやすい形に整えられ、小腸にある酵素の働きで消化・吸収されます。その後、大腸で水分と栄養が吸収され、残りで大便が形成されます
腸には「腸管免疫系」という防御システムがあるため、食べ物と一緒に病原菌やウイルス等が体内に入っても、すぐに病気にはなりません。小腸には体内の免疫細胞の約6割以上が存在していると言われ、大腸に住む腸内細菌も、免疫力に大きく関係していることがわかってきています。
腸内環境とは、腸内フローラ(腸内細菌叢)などに住む微生物叢(そう)のこと
微生物というとマイナスなイメージがありますが、人は多くの微生物と共存しています。腸内環境のバランスを整えているのも微生物です。微生物は、消化酵素で分解しきれなかった食べ物を分解して、人に栄養素を補給したり、自らのエネルギーにしています。このように、腸の内部に住み着いている微生物を腸内細菌といい、1000種類以上の種類、約100兆個の細菌が腸の壁面に生息しています。
善玉菌、悪玉菌、日和見菌が腸内細菌の代表的な菌です。ビフィズス菌や乳酸菌でよく知られているのが善玉菌。これは、消化吸収の補助や免疫刺激など、健康維持や老化防止などに必要な菌です。ウェルシュ菌、ブドウ球菌、大腸菌(有毒株)などは悪玉菌の代表的な菌で、体に悪影響を及ぼします。パクテロイズス、大腸菌(無毒株)、連鎖球菌が日和見菌の代表的な菌で、普段はおとなしくしていますが、体が弱ったりすると腸内で悪さをします。
このように、腸内細菌のバランスは人それぞれですが、細菌叢が腸の健康維持と密接な関係があることがわかってきています(Biesalski et al., 2016)。腸内細菌のバランスが崩れると、免疫力が低下したり、お腹をくだしたり、様々な病気になる可能性があります。また、腸内細菌のアンバランスは、自律神経、ホルモンの問題の原因とも考えられ始めています。(Selber- Hnatiw et al., 2017)
アスリートにとっての腸内環境
腸内環境については、解明されていないことが沢山ありますが、最近の研究で分かり始めていることも増えてきています。
次の理由から、腸内環境を整えることはスポーツのパフォーマンス向上にもつながると考えられています。
- 運動により発生する急性炎症や慢性炎症に対して、具体的にどの細菌がどの状況で有用か等は解明されていないこともありながら、少なくとも腸内環境を整えることは抗炎症やリカバリー対策として有用であること(Zhao et al., 2017)。
- ホルモンの反応にも影響があること (Lyte, 2016)。
- 運動が細菌叢の構成に影響を及ぼすというエビデンスから、運動・細菌叢の構成・微生物が、潜在的に運動後の免疫反応に影響を与えること (Bressa et al., 2017)。
- 腸内の粘膜にある免疫システムと腸内細菌との関係は、免疫力に影響を与え(Kim & Kim, 2017)、呼吸器系の免疫力にも同様なため、激しい運動中や試合中に呼吸器疾患の症状を訴えるアスリートもいることから、腸内環境を整えることが有用であること(Drew et al., 2017)
以上のことから、次のシーズンの準備として、このオフシーズンに腸内環境を整えることを考えてもよいかと思います。
プロバイオティクスとプレバイオティクスを意識した菌活
競技種目ごとにアスリートの持つ腸内細菌の種類が違うという研究もありますが、アスリートが体のコンディションを整えるには、健康的な腸内環境を作ることが最も大切です。それには、腸内細菌が偏らないように菌活をすること。多様な菌を摂取するには、
(1)よい土壌で育ったオーガニックの野菜や果物を食べる(2)抗生剤やホルモン剤を投与されていない食材を食べる(3)加工食品を食べない(4)発酵食品を食べること。それに加えて、自然に触れる、極端な除菌をしないなど、生活面での心掛けが大切になります。しかし、発酵食品や雑穀を積極的に摂ることはできても、それ以外のことを全て行うのは難しいかと思います。そこで役に立つのが、プロバイオティクスとプレバイオティクス。
プロバイオティクスは微生物で、腸内細菌叢のバランスを改善することによって宿主の健康に好影響を与え、気分の落ち込みを抑えたり、ストレスホルモンを抑える効果が期待されています。代表的なものが乳酸菌やビフィズス菌です。
プロバイオティクスを含む食材の代表例
味噌、キムチ、ヨーグルト、テンペ、ケファ
プレバイオティクスは、消化器上部で分解・吸収されない難消化性食品成分です。大腸に共生する細菌の栄養源となり、有害な細菌の増殖を抑え、有用な細菌を選択的に増殖させ宿主に有益な効果をもたらします。その結果、調整作用、ミネラル吸収促進作用、炎症性慢性疾患の予防や免疫力の向上、体重コントロールの効果が期待されます。代表的なものが、オリゴ糖や食物繊維の一部です。
プレバイオティクスを含む食材の代表例
玉ねぎ、チコリー、キヌア、アマランザス、ホロねぎ、アーティーチョーク
今からすぐできる菌活
豆や蕎麦の実、アマランザス、ケール等の植物性タンパク質を摂り入れる、もしくは動物性から置き換えること。そして、身近な発酵食品(例えば、納豆、味噌、糠漬け等)を積極的に摂ること。これにより、普段の食事が、抗酸化作用の効果とともに、腸内環境を整える食事となります。その他に、キャベツの千切りに塩や香辛料を加えて発酵させたザワークラウトもおすすめです。ザワークラウトは、植物性乳酸菌、食物繊維が豊富。さらに、キャベツを発酵する過程でビタミンCが新たに生成されることから、原料のキャベツよりも多くビタミンCを摂ることができます。ビタミンCはストレス対策や風邪予防にも効果的です。また、キャベツにはビタミンUが含まれており、胃液の分泌を抑え、胃の粘膜を保護します。忘年会など、外食が増え胃が疲れるこの時期だからこそ、食べてもらいたい一品です。
いかがでしたか?このオフシーズンに「菌活」を始めてみてはいかがでしょうか?
- Biesalski, H.K. (2016). Nutrition meets the microbiome: micronutrients and the microbiota. Ann. NYAS. 1372:53-64.
- Bressa, C., M. Bailen-Andrino, J. Perez-Santiago, R. Gonzalez-Soltero, M. Perez, M. G. Montalvo- Lominchar, J.L. Mate-Munoz, R. Dominguez, D. Moreno, and M. Larrosa (2017). Differences in gut microbiota profile between women with active lifestyle and sedentary women. PLoS One 12: e0171352.
- Drew, M.K., N. Vlahovich, D. Hughes, R. Appaneal, K. Peterson, L. Burke, B. Lundy, M. Toomey, D. Watts, and G. Lovell (2017). A multifactorial evaluation of illness risk factors in athletes preparing for the Summer Olympic Games. J. Sci. Med. Sport. E-pub ahead of print (PMID: 28954799)
- Kim, M., and C.H. Kim (2017).”Regulation of humoral immunity by gut microbial products. Gut Microbes. 8:392-399.
- Lyte, M. (2016). Microbial endocrinology in the pathogenesis of infectious disease.” Microbiol. Spectr. 4:2.
- Maya Shetreat-Klein(2016)”Healthy Food, Healthy Gut, Happy Child: The Real Dirt on Raising Healthy Kids in a Processed World” Bluebird
- Scheiman, J., Luber, J.M.(2019) “Meta-omics analysis of elite athletes identifies a performance enhancing microbe that functions via lactate metabolism” nature Medicine 25 1104-1109
- Selber-Hnatiw, S., et al. (~100 authors) (2017) Human Gut Microbiota: Toward an Ecology of Disease.zh
- Zhao, S., W. Liu, J. Wang, J. Shi, Y. Sun, W. Wang, G. Ning, R. Liu, and J. Hong (2017). Akkermansia muciniphila improves metabolic profiles by reducing inflammation in chow diet-fed mice. J. Mol. Endocrinol. 58:1-14